一組ずつ
心斎橋の駅前で店をしていた頃、長く通ってくださっているお客様ほど、先に帰られることがありました。
何組ものお客様が同じ時間に重なると、
ほかの方に場所を譲るように、店を後にされる。
賑わう店はありがたかったけれど、ゆっくり試着していただくことも、少しお話しすることもできないまま、お見送りする日がありました。
もう少し時間を取れなかっただろうか。

今、BORDEAUXがあるのは、
大阪・堺のヴォーリズ富久邸。
通りがかりに立ち寄る場所ではなくなりました。
遠方から、時には海外から、時間をつくって訪れてくださる方もいます。
予約が入ると、その方に合わせて売場のディスプレイを変えます。
何を見に来られるのか。まだ出会っていない一着を、何かお見せできないだろうか。
長く通ってくださっている方と、初めてお会いする方では、準備の仕方も少し違います。
今は、一度に一組ずつお迎えしています。

長くお付き合いしていると、服の好みだけでなく、その方の仕事や暮らしも少しずつ分かってきます。
お互いに歳を重ねれば、
暮らしも、着る服も変わっていく。
いつもの好みとは少し違う一着をお見せすることもあります。
その人が袖を通したとき、
服がどんな表情を見せるのか。
そこに、服を選ぶ仕事の面白さがあります。
すべての来店が、
買い物につながるわけではありません。
以前、初めて来られた方が、何も買わなかったのに丁寧にしてもらって申し訳ない、と謝られたことがありました。
そのとき僕は、楽しんでいただけましたか、と聞きました。

20年以上、お付き合いが続いている方もいます。
近況を話しに訪ねてくださる方もいれば、
友人が遊びに来て、
服とは関係のない話で時間が過ぎる日もあります。
そうした関係が、
僕自身の人生の一部になっています。
心斎橋にいた頃も、この仕事が好きでした。
今は、自然や季節を身近に感じながら、一組ずつお迎えしています。
この仕事が、以前にも増して楽しい。
そして、日々の暮らしも豊かになりました。
服を見て、話をして。
時には、服のことを忘れてしまうような時間もある。

ZENJUN / BORDEAUX