BORDEAUXでは11月25日(金)〜27日(日)に、<oira(オイラ)>の展示会を開催します。衣服作品のオーダーを受け付けるほか(袖丈等の微調整、生地の載せ替えも可能)、1点ものの衣服作品やポスター作品の販売も実施します。 oiraは主宰である高橋雄飛(たかはし・ゆうひ)さん本人がデザイン、パターン、縫製(一部除く)まで全てを手がける衣服に加え、彫刻作品やポスター作品などを含む、一連のアート活動です。 高橋さんとoiraのこれまでの歩み、活動のインスピレーション源について語ってもらったSPECIAL INTERVIEW VOL.1———ABOUT “OIRA”.(クリックすると表示されます)に続く第二回は、今回BORDEAUXで開催する展示会のテーマや、受注・販売する衣服作品に使用している生地やデザインについて、お話を伺いました。 「叫びと囁きと蠢き」 __今回のコレクションのテーマについて教えてください。 高橋雄飛さん(以下、高橋):年間を通じて作り続けているので、一般的に「コレクション」と呼ばれるような、シーズンごとのまとまったものは今ところ出していません。 シーズンや年間を通じた「コレクション」よりも、目の前の展示会に向けて作品作りをする意識の方が強いですね。 今回のBORDEAUXさんでの展示会で言えば、お店兼ご自宅を設計したウィリアム・メレル・ヴォーリズがテーマになっていて、テーマに沿った作品を持っていく予定です。 ただ今年の最初に、今回からお願いするようになったテーラー職人さんと5〜6型を一緒に作った時のテーマは「叫びと囁きと蠢き」でした。 イングマール・ベルイマンの『叫びとささやき』という映画があります。ベルイマン初のカラー作品であり、愛とは常に自分本位であることを秀逸に描いた作品だと思います。 この作品に深く共鳴する部分があったのと同時に、コロナや自分の状況と重ね、生をもがき、うごめきながら再生することを肯定したいと思いました。 だから「叫びと囁きと蠢き」というテーマにしました。 __高橋さんは普段デザイン、パターン、縫製まで全てご自分で手がけていますが、テーラー職人さんと一緒に作品作りをしようと思ったのはどうしてですか? 高橋:僕にはできないからです。テーラーと日常的な生活の衣服は作りや技術が異なるので、ちゃんとしたものを作るなら経験を積んだ人にやってもらった方がいいと思い、共通の知り合いを通じて一緒に制作することになりました。 彼女は銀座で100年近く続くテーラーのお店で経験を積んだ方なので、今回の作品にも日本のテーラーイズムが色濃く出ています。 オーダー可能な生地について __今回の展示会では、生地の載せ替えを含めて衣服作品のオーダーを受け付けるとのことですが、何種類くらい生地を見せてもらえるんでしょうか? 高橋:オーダーしていただける生地は8種類です。 __その中から、特にお気に入りの生地を3つ挙げるとしたらどちらになりますか? 高橋:まずは愛知の一宮で織ってもらった、チェック柄のウールレーヨンの生地です。この生地は織り柄とふっくらとした厚みが相まって、蠢いているイメージと合っていると思いました。 半分レーヨンなのでウールの暖かさに加えて、軽さもあるのが特長です。 ずっと使っている中国の泥染シルクも気に入っています。貴州省の右、広東省の上くらいに分布している民族が織っている生地なんですが、oiraでは何度か繰り返し使っています。 __シルクというと繊細なイメージがありますが……。 高橋:中国やインドなどの大陸のシルクは養殖の蚕ではなく、野生の蚕のシルクを使っているので、繊維が太くてしっかりしています。 また泥染めも、田んぼの中で押し付けて染色する日本の奄美の染色方法は色落ちすることで味が出ますが、中国の染色方法は野原に広げて泥を被せて放置して染めます。繊維の中までしっかり染まるので、色落ちしにくく、扱いやすいのが特長です。 __あと一つはどうでしょうか? 高橋:もう一つは、短い毛が混じったようなウール100%のメルトン生地ですね。ケンピ毛(※)のメルトンは、粗野でありながらしっかりとハリがあるのでモダンな生地感になっています。 ※ケンピ毛:羊毛の中でも、人間の白髪のように色、風合い、弾力性など、本来の羊毛の性質を失った毛のこと。 受注・販売する衣服作品について __受注・販売する衣服作品は何型ありますか? 高橋:受注できるのが10〜12型で、1点ものが10点ほどあります。 __簡単に紹介してもらうことはできますか? 高橋:はい。先ほど話したウールレーヨンのチェック柄の生地で、ピークドラペルのテーラードジャケットを作っています。3つボタンのお台場仕立て、総裏仕様で裏地にはキュプラを使っています。 ボタンはあえて分厚いものを使っています。ジャパンテーラーのようなぽってりとしたシルエットに細身でピークのラペル、ポッケの位置など伝統的なものにズレを含ませて違和感を演出しています。 また、オーソドックスなテーラードジャケットなら背面にはベント(切れ込み)がありますが、このジャケットにはありません。 こちらは同じウールレーヨンの生地を使った、ワークブルゾンですね。 __これ、同じ生地なんですか?色が全然違いますが……。 高橋:この生地は二重織りなんです。テーラードジャケットで表、ワークジャケットでは裏を使っています。こちらは裏地をつけていないので、裏を見ると表の生地が見えるようになっています。 表と裏、テーラーとワークという形で、同じ生地で対になるイメージで作っています。 あと、ベースはフレンチワークジャケットなんですが、ワークに寄りすぎないようにポケットの数を減らして、2つあるサイドポケットはドレス寄りになるよう玉縁にしました。 テーラーイズムのあるワークジャケット、というイメージです。ボタンはテーラードジャケットと同じで分厚くて大きなプラスチックボタンです。 __こちらはBORDEAUXオーナーの久永さんがオーダーしたシャツですよね。 高橋:はい、そうです。和紙ベルベッドで作っています。 __和紙のベルベッドなんて、初めて聞きました。 高橋:僕も初めて見ました。最近開発されたのか、まだそんなに出回っていないと思います。 これはShirin Guildというイラン生まれのデザイナーがよく使う形からリファレンスして作ったものです。 彼女が作るシャツはイランの男性衣装をベースにしたウィメンズブランドなので、もっと身幅が広くて丈が短いんですが、oiraでは男性でも着やすいように微調整を行いました。 袖の付け方もShirinは縦にまっすぐシーム(縫い目)が入りますが、このシャツは丸く湾曲させてシェイプしているので、また見え方が変わるかと思います。 ボタンには50年代アメリカの工業用ボタンを使っています。デザイン自体はフェミニンなんですが、ここで少し無骨さを出して引き締めています。 ちなみにこれは、先ほどご紹介した中国の泥染シルクでも作れます。 __こっちのテーラードジャケットは先程のテーラードジャケットとは違う型ですか? 高橋:そうですね。ウール100%のメルトン生地で作ったものですが、1920年代のフレンチテーラーに、総一枚仕立てのジャケットがあり、そこからインスピレーションを受けて制作しました。 上襟もラペルもボディも1枚仕立てで作り、袖だけ裏地がつきます。硬さが必要な上襟にはステッチを施しています。 丈は若干短くして、胸ポケットはやや低めに。僕のイメージでは東ヨーロッパ―――チェコやポーランドなどの元共産圏の衣服にある、なんだかヘンテコなテイストを随所に入れています。 袖のみ裏地がついているんですが、これはインドのカディ(手紡ぎ・手織りの布)に木版プリントを施したものを使いました。着ると、少しだけ袖口から覗くようになっています。 __同じ生地で、スラックスのサンプルもありますね。 高橋:丈の短いジャケットに合わせて、ハイウェストなパンツを作りました。ベルトループなし、タックもなくストレートなシルエット。できるだけぴったり着てもらいたいですね。 フィッティングはタイトなんですが、生地に厚みがあるので、履いた時のシルエットはぽってりとしています。 __いいバランスですね。でもタイトな作りとなると、調整がききにくいんですね……。 高橋:オーダー時には採寸をして着る人に合わせて作れますし、内側にアジャスターをつけているので、若干の調整もききます。 ちなみに、ウールメルトンのセットアップはもう1セットあります。 __こちらは少し緑がかっていますね。 高橋:はい、緑です。こちらはややゆったりめのサイジングにしてあるのと、1枚仕立てではなく、2枚仕立てで作っています。同じ形なんですが、仕様が違うので、どちらでも好きな方を選んでもらえたらと思います。 パンツの方は、前開きが斜めになっています。黒の方はタックがなくてタイトなので、座ったりすると前開きが広がる場合があります。それが苦手な人はこちらの仕様がおすすめですね。 こちらは同じウールメルトンで作ったショートジャケットです。 __あ、これ、Instagramのストーリーズで拝見しました! 高橋:マジックテープで着丈を調整できるようにしました。ウィメンズ寄りで作っているんですが、マジックテープの付け外しによって男性の方でも着られるバランスにしてあります。 これも同じ生地で作ったワークジャケットですね。 __oiraのアップリケがついてるんですね。 高橋:OとIは知人に編んでもらい、RとAにはレザーを使いました。 形としてはさっきのウールレーヨンのチェック柄の生地で作ったワークジャケットよりは肩が詰まっていて、落ちていません。ボタンは一番上に1つあるのと、2個目をスナップボタンにしました。クラシックに着こなしてもらうイメージです。 ただ、ハンドニットを縫い付けると、背中の部分にその縫い目が出てポコっとエンボス加工されたように盛り上がります。OIが反転して10(番)になり、これがクラシックな印象にほどよい滑稽さを与えています。 __こちらは被りのシャツですか? 高橋:先日展示会をさせていただいた、Skoolというお店に合わせて作ったスキッパーシャツです。イタリアンカラーで、少し長めの丈にしています。 Skoolさんから分けてもらった生地を使い、店長とデザインから起こして作りました。コットン50、アクリル50の新品とは思えない色合いの生地になっています。 BORDEAUXさんの展示会ではこの上に、天然染料で黄色かグレーのオーバーダイを施したものも持っていこうと思っています。黄色がフクギ、グレーはモモタマナという植物を使います。 __それは誰かに頼むんですか? 高橋:いえ、僕が沖縄に行って、染色家の知り合いにお手伝いいただき、染めてきます。そのタイミングで一緒に染めようかなと思っているのが、このワンピースです。 前と後ろにコードが入っていて、引っ張れば引っ張るほど丈が短くなって、伸ばすと着丈145cmまで伸ばせるようになっています。 __他に染める予定の作品はありますか? 高橋:このイージーパンツですね。コットンリネンにシワ加工を施した生地で作っています。これも白で作って沖縄で黄色とグレーに染めようと考えています。 __1点ものの方はどんなものがありますか? 高橋:中国の泥染シルクで作ったツナギのほか、oiraのロゴを入れたハーフジップのニットなど、今まで作ったものを色々と持っていく予定ですが、製作中のものもあります。 先ほど今回の展示会はウィリアム・メレル・ヴォーリズがテーマになっていると話しましたが、ちょうどよいタイミングで京都のbildという古道具屋の友人からヴォーリズさんの設計図がたくさん仕入れることが出来たと一報が届いたんです。 そこで、その一部をお借りして石版画をやっている知人に頼んでリトグラフに起こしてもらいました。 今回の展示会では、リトグラフの作品と青焼きの設計図を衣服と一緒に展示します。 __これはメンソレータムのロゴ……ですか? 高橋:ヴォーリズさんがメンソレータムの創設者ということで、oiraバージョンを作ってもらいました。本物は少女の腕章にMが描かれているんですが、Oにしています。 これは6cm×6cmの布タグにして、衣服を購入して頂いた方でご希望の方には縫い付けさせていただきます。(別途料金) __まだまだ、制作中のものがいくつかあるんですね。 高橋:告知の段階であまりわかりやすくお出しできなくて申し訳ないです。 __いえ、それはそれでワクワクするので大丈夫です。今回の展示会、めちゃくちゃ楽しみにしています!本日は長いインタビューにお付き合いいただき、ありがとうございました。 高橋:こちらこそ、ありがとうございました。 イベント概要 ●開催期間:2022年11月25日(金)〜27日(日) ※全日、高橋雄飛さん在廊 ●開催中の営業時間:12:00〜17:00 ●開催場所:BORDEAUX 〒592-8333 大阪府堺市西区浜寺石津町西4丁15-12 ヴォーリズ富久邸 ●概要 ・衣服作品のオーダー受け付け(袖丈等の微調整、生地の載せ替えも可能) ・1点ものの衣服作品やポスター作品の販売 ・納期は秋冬物が1月中旬、春夏物は3〜4月を予定。 話し手:高橋 雄飛(oira) 聞き手:久永 善純(BORDEAUXオーナー)/鈴木 直人(ライター)...

今回は展示会開催にあたって、多くの人にoiraと高橋さんを知っていただくために、インタビューを実施。vol.1では高橋さんとoiraのこれまでの歩み、活動のインスピレーション源について、vol.2では展示会のテーマと、受注・販売する衣服作品のデザインと使用する生地について、具体的にお聞きしました。...