“JJVE 2023A/W PITTI UOMO SHOW“をふりかえって

今年の1月11日、イタリア・フィレンツェのファッションのお祭り“Pitti Immagine Uomo(通称“Pitti Uomo”)”で行われたJJVEのショーについて、会場の様子やショーの内容、観客の人たちの様子や私が感じたことなど、色々と振り返ってみようと思います。

普段はあまりこういうブログは書かないのですが、私自身が一生の思い出になったと感じるくらい素晴らしいショーだったことと、日本の取扱店で唯一ショーを観るチャンスをもらえたことから、きちんと記憶を残しておきたいと思い、書くことにしました。

長年JAN JAN VAN ESSCHE(以下、JJVE)を愛用いただいている方や、彼らの新しい作品を心待ちにされている方に読んでいただけたら幸いです。

1月10日、ショー前夜のこと

1月8日に日本を出発して、1月10日のフィレンツェに着いた私は、Pitti Uomo(以下Pitti)のスタッフさんが案内してくれたホテルに泊まりました。

ホテルのレストランからは、ショーの会場となるサンタ・マリア・ノヴェッラ教会が見えました。

調べてみると、1246年に建てられ始めてから、100年以上かけて完成した建物。建物そのものはもちろん、壁に描かれたフレスコ画が非常に美しい、フィレンツェを代表する教会の一つなのだそうです。

教会の隣には世界で一番古い薬局として有名なサンタ・マリア・ノヴェッラ薬局もあります。香水や石鹸、ローズウォーターでも知られていますよね。

建物のことについては、私は詳しくないので、もっと知りたいという方はWikipedia をご覧いただければと思います。それはともかく、ライトアップされた美しい教会を見て、次の日がもっと楽しみになりました。

1月11日、ショー当日(1)

翌日、会場に着くと、キャットウォーク(ランウェイ)が設営されたホールに通されました。とても静かで空気の流れもよく、瞑想したくなるような、神秘的な空間でした。

観覧席はこのキャットウォークの両サイドに配置されていて、ファミリーやバイヤー、プレスなどに分けて案内されていました。

もちろんJJVEの作品を着ている人は多かったのですが、他にもハンドメイド感のある伝統的な生地を使った服を着ている人や、ボヘミアン風のファッションをしている人もたくさんいました。JJVEの世界観に共鳴している人たちを中心に招待している、という感じでした。

当日の会場や観覧客の様子については、Pittiのホームページなどでも写真が載せられているので、一緒に見てもらえればよりイメージがしやすいと思います。

1月11日、ショー当日(2)

今回のJJVEのショーは、大きく三部構成になっていました。第一部がランウェイショー、第二部がダンスショー、第三部がミュージックショーです(※全体の雰囲気は、JAN JAN VAN ESSCHEのYouTubeに素晴らしい動画があるので、ぜひそちらをご覧ください)。

 

 

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ランウェイショーは、インターネットでも配信されていたので、観た人も多いかもしれません。JJVEのコレクションではお馴染みのモデルたちとイタリアを拠点に活動するモデルたちが、PROJECT11 “RITE”の作品を着て、サンタ・マリア・ノヴェッラ教会の神秘的な空間をウォーキングする姿は、とにかく美しかった。

今回のコレクションは、ピナ・バウシュというドイツのコンテンポラリー・ダンスの振付家がプロデュースした「The Rite of Spring(春の祭典)」という作品にインスピレーションを受けたそうです。ロケーションも、作品も、音も、モデルたちも、まさに太古の儀式のようなショーでした。

第一部だけでも素晴らしいショーだったので、ランウェイが終わるとすぐ、会場は拍手喝采になりました。しかし音は鳴り止まず、モデルが何人もキャットウォークに残っています。何が始まるんだろうと思っていると、第二部がスタートしました。とても自然な流れでした。

JAN JAN VAN ESSCHEは、アントワープの王立バレエ団やSidi Larbi Cherkaoui(シディ・ラルビ・シェルカウイ)という著名な演出家の作品に、何度も衣装を提供しています(彼らの服が動いた時にとても素敵に見えるのは、こうした経験を積んでいるからだと思います)。

そのため彼らの仲間には、このバレエ団に所属している人を含めて、世界トップクラスのダンサーがいます。第二部では彼らがメインとなり、素晴らしいダンスショーを見せてくれました。

ダンサーのパフォーマンスを夢中になって見ていると、スタッフの人が観覧客たちに「ショーはまだ終わりません。このあと、別の場所に移動するので、ここで待っていてください」とこっそり伝えてくれました。

するとダンスショーが終わるタイミングで、キャットウォークの横側にある扉が開き、真っ暗な空間に外から光が差し込んできました。スタッフの指示に従って、光の方へ歩いていくと、ベルギー在住の日本人女性が叩く、生のドラム(太鼓)の音が聞こえてきます。

会場は教会内にある芝生の広場のような場所。第三部のスタートです。

この広場は回廊に囲まれているのですが、回廊の壁にはフラスコ画が描かれていました。見ると、先ほどのモデルたちがその前にボックスを置いて立っています。

素晴らしい演出に感動していると「モデルの着ている作品に触って、お楽しみください」というアナウンスが。さっきランウェイショーとダンスショーで見ていた作品を目の前で見て触る体験は、とても感動的でした。

特にこのワックスコットンのポンチョとデニム+エプロンのスタイル(1枚目)、ヤクウールの帽子、ニット、ブランケット、そしてハットメーカーとコラボして作ったビーバーのハットはとても素晴らしい仕上がりでしたし(2枚目左)、Vネックの機能的なジャンプスーツやパンツに使われていた、コーヒーと備長炭で染めた生地の色味も素敵でした(3枚目左)。

オーダーしたものが届くのが、今から楽しみです。

しばらくすると、広場の中央にモデルたちが集まり、Jan Janが挨拶を始めました。全部で2時間のショーは、そこで終わりを迎えました。

会場も、音楽も、ダンスも、モデルも、そして衣装も、何もかもが完璧なショーでした。ファッションショーというよりも総合芸術と呼ぶ方がふさわしいクオリティで、あまりの美しさにたくさんの観覧客が泣いていました。

印象に残った3つの場面

今回のショーは本当に全てが素晴らしかったんですが、中でも印象に残ったのは3つの場面です。

一つ目は、ランウェイショーでこの女性が歩いてきた場面。出てきた途端、会場の空気がガラッと変わりました。穏やかで神秘的な空気をまとっているような人で、自然と目が惹きつけられました。

あとでJan Janにそのことを伝えると、「あの人はMargielaのミューズ(インスピレーション源、ブランドの象徴となるモデル)だからね」と言っていました。トップクラスのモデルには、事前情報がなくても、人を感動させる力があるんだと実感した場面でした。

ランウェイショーの最後では、JJVEのHANDWOVENシリーズなどを手がけるLamine Dioufさんが、自分で織ったテキスタイルを使ったスペシャルなポンチョを纏って登場しましたが、そのシーンもとても美しくて印象に残っています。

二つ目はダンスショーです。私自身がカポエィラ(ブラジル発祥の格闘技と音楽、ダンスの要素が合わさったもの)をやっていたこともあり、第二部のショーには特に感動しました。一流のダンサーが、一流の衣装を着て、一流のロケーションで踊るわけですから、本当に素晴らしかった。

特に今回のコレクションを象徴する、絞り染めの生地で作られたボンバージャケットを着ている男性と、色違いの絞り染めの生地で作られた羽織を着ている女性は、表現力が段違いでした。

エネルギッシュでエレガント。長い時間、ダンスで人の目を惹きつけるのはとても難しいことなのですが、彼らのダンスはいつまでも見ていられるほど美しいものでした。

三つ目は第三部が始まって、広場に続く扉が開いた場面です。暗い空間に光が差し込んできて、音楽が聴こえてくるところは、本当に神秘的でした。

後から気づいたんですが、キャットウォークのあるホールに入るまでに、第三部の広場に続く道があったんです。でもショーが始まる前、この道は閉鎖されていて、その先に芝生の広場があることがわからないようになっていました。

きっとモデルたちは第一部・第二部が終わってからホールを出て行って、観覧客が広場に出てくるまでにフラスコ画の前に立っていたのだと思います。本当によく考えられたショーでした。

この場面が感動的だったのには、もう一つ理由があります。それは広場に出てすぐに、Jan Jan+Pietroと3年ぶりに再会できたからです。私がフィレンツェに到着したのは前日の夜でしたし、彼らは次の日の準備があったので、この瞬間まで会うことができなかったんです。

ショーの中でも最も盛り上がるタイミングだったので、そのぶん感動もすごかった。再会を喜んで泣いている人たちもたくさんいました。

本当に一生の思い出に残る、素晴らしい時間でした。

ショーを通じて改めて感じた、JJVEの思い

私は人とのコミュニケーション、世界中の文化や古いものが好きで、その美しさを伝えたい、未来に残したいと思って今までBORDEAUXを続けてきました。私とJan Janはこの意味で同じ世界観を追い求めています。

Jan Janは、日本の本藍染や中国の泥染などの職人の作る伝統的な生地を軸にして、美しい服を作ってきました。彼はそうした伝統的な技術が生み出すものに人の温もりや魂を感じていて、それを多くの人に伝えたいと考えています。

ファッションを通じて「自分」を表現しようとしているというよりは、「自分」の向こう側にある何かを見て表現をしている。もっと奥にある、純粋に美しいものを追い求めている。

だからと言って彼は、美しさばかりを追求しているわけではありません。良質な素材で作られた服は着心地も抜群で、デイリーに気持ちよく着られるのです。

それがJAN JAN VAN ESSCHEというブランドの魅力だと私は感じていますし、だからこそ、彼が作る服は、エレガントでモードでありながら、エシカルでミニマル、そしてフリーダムなのだと思います。そして、それが伝わっているから、世界中でJAN JAN VAN ESSCHEの作品を手に取る人が、ゆっくりと着実に増えているのではないでしょうか。

今回のショーで、そんな彼と私が追い求めている世界観や、Jan Janが表現しようとしてきたことが、芸術として一つの完成を見たような気がしました。それほど美しく、完璧なショーでした。こんな素敵な体験をさせてくれたJJVEチームやPitti Uomoのスタッフの方々に心から感謝しています。

そんなショーを彩った美しい作品たちが、もうすぐ届きます。ぜひ楽しみにお待ちいただければ幸いです。