NEW BRAND <oira(オイラ)> Special interview vol.1———About “oira”.

BORDEAUXでは11月25日(金)〜27日(日)に、<oira(オイラ)>の展示会を開催します。衣服作品のオーダーを受け付けるほか(袖丈等の微調整、生地の載せ替えも可能)、1点ものの衣服作品やポスター作品の販売も実施します。

oiraは主宰である高橋雄飛(たかはし・ゆうひ)さん本人がデザイン、パターン、縫製(一部除く)まで全てを手がける衣服に加え、彫刻作品やポスター作品などを含む、一連のアート活動です。

今回は展示会開催にあたって、多くの人にoiraと高橋さんを知っていただくために、インタビューを実施。

vol.1では高橋さんとoiraのこれまでの歩み、活動のインスピレーション源について、vol.2では展示会のテーマと、受注・販売する衣服作品のデザインと使用する生地について、具体的にお聞きしました。

「古道具屋で働きながら服を作り始めたのが、スタートです」“oira”になるまで

__高橋さんがブランドを立ち上げたのはいつのことですか?

高橋雄飛さん(以下、高橋):展示会を始めたのは5年くらい前ですね。東京の専門学校を1年で辞めて、京都の古道具屋で働きながら服を作り始めたのが、スタートです。“oira”という名前を使い始めたのが3年前くらい。

古道具屋で働いていたのは2年ほどなんですけど、その期間に海外に行かせてもらって、古道具の買い付けのかたわら、衣服作品を作るための古布を集めて。その布を使って衣服を作っていった、という感じでした。

ただ、いまだに「ファッションブランドを立ち上げた」という感覚がなく……。

__どうしてですか?

高橋:ファッションブランドのデザイナーって、チームのトップに立って指揮をするようなポジションだと思うんですが、僕は基本的に自分で手を動かして作品を作ります。

なので「ファッションデザイナーの高橋さんです」と紹介されると、しっくりこないんです。そんな大層なものじゃないと(笑)。

自分自身としては、美術家が色々な物を作るひとつとして服を作ってるっていうイメージで制作しています。

__いつ頃からファッションやアートに興味を持ったんですか?

高橋:小さい時からですね。美術や映画が昔から好きでした。ファッションに関しては、映画をたくさん観るうちに、そこに登場する衣装とかにいつの間にか興味を惹かれたんだと思います。


高橋さんが専門学校時代に制作したリメイク作品。

__自分で最初に作ったのは、どんな服でしたか?

高橋: リメイクですね。COMME des GARCONSのニットジャケットと、古着の布帛のコートを半分ずつくっつけて、ステッチワークみたいにした服を作ったりしてましたね。

僕が通った専門学校ではスカートから始まってワンピースなどを作っていくんですが、作るものをけっこう強制されるので、授業とは別に自分でも勝手にいろいろ作っていました。

そんな調子だったので、最初の1年でしっかり基礎を学んだらあとは自分でやってみようと思ったんです。

「“YUHI TAKAHASHI”は全然しっくりこなかった」“oira”という名前の由来について

__“oira”の名前の由来を教えてください。

高橋:江戸弁の「私」という意味の「オイラ」をローマ字にしたものです。

最初は自分の名前をブランド名にしてやっていたんです。でも“YUHI TAKAHASHI”は全然しっくりこなかった。だからといって、「私」以外の名前にするのも合わない。

日本人としてのアイデンティティを持ち続けたい、残したいという思いもあったので、江戸弁の一人称にしようと思ったんです。

__どうして江戸弁だったんですか?

高橋:粋や義理・人情、見栄や滑稽な部分も含めて、江戸文化が好きなんです。

あとは明治以降昭和初期後期の和洋折衷な文化―――成瀬巳喜男や溝口健二などの映画監督、勝新太郎あたりの役者やエノケンやトニー谷などの芸人、立川談志や桂枝雀などの落語家、タモリさんや赤塚不二夫や赤瀬川原平あたりなどなど、とても好きで。

カッコつけて(歌舞いて)、失敗しちゃうみたいなところにも全てひっくるめて色気がある。

派手な生き様を見せつつも、みなさん根底にたくさんの教養があるところに色気を感じます。

あと“oira”という名前には、自分と相手の距離感を改めて考える一つのきっかけになったらいいなあ、という淡い希望みたいなものも託しています。

__どういうことですか?

高橋:養老さんが話していたのを聞いたことがあるのですが、関西弁で相手のことを「自分」と言うときの「自分(=あなた)」には、日本人的な言語感覚が表れています。

英語では私=I、あなた=YOUでしかないですから、独特な言語感覚であることは誇らしく、興味深いです。

これを踏まえてoiraという名前で考えると、僕がこの名前を言うことより、買ってくださった人なり、周りの人が言う方が現状でも多いわけです。

oiraの衣服は物理的に自分と他者の間に存在する物ですが、これをその人たちが「オイラ(=私)」と呼ぶことで、自分と他者が、もっと曖昧に、あるいはもっと明確になればいいなと思っています。

__日本家屋の縁側みたいなイメージでしょうか。昔の日本における縁側は、外と内をはっきり分ける領域でありながら、近所の人が尋ねてきて、一緒にお茶を飲んだり、世間話をしたりする外と内が交わる領域だったそうです。今の話から、そんなイメージが湧いてきました。

高橋:服ってなんだかんだ自己表現だと思うので、インターネットとかに溢れる2次元の情報に自分のアイデンティティとかファッションを任せるのではなく、衣服を着る人それぞれが自分なりの考え方や感じ方を見つめ直すことも必要だと感じています。

僕が作るものが、そのきっかけになれば嬉しいですね。これはあくまでぼんやり「そうなったらいいなあ」と思ってるくらいなんですけど(笑)。

__あくまでぼんやりと、あわーく抱いてる希望なんですね(笑)。

高橋:そう、こう思ってくれたらええなあ、くらいの。

「見えないものを見えないまま、手放したくない」“oira”のインスピレーション源とは?


Art work by 板間底冷

__oiraのホームページには、衣服作品以外にsculpture、clod stitich、posterと衣服以外の作品も掲載されています。これらの作品群と衣服作品はどういう関係にあるんでしょうか?

高橋:位置付けとしては、衣服に比べて素直な作品という感じです。ファッションだと着れるものとして作らないとダメなので、ある程度制約があります。そこが衣服の面白いところだと思うんですが、それとは別に素直な精神性を表しています。

__あくまで高橋雄飛という同じ人間の、別の側面というイメージでしょうか?

高橋:そうですね。あと、服を形として捉える時に、立体物はとてもインスピレーションになります。自分の中から出てきたものを立体物として作れば、それを衣服に落とし込むという行為にも、表現として意味があるように思います。

__自身が作る作品以外に、どんなところからインスピレーションを得ますか?

高橋:今まで作られてきた衣服、映画や美術はもちろん、身の回りの人や些細な生活の機微を注視するよう心がけています。

具体的に言えば、戦後すぐのミニマルアート初期世代は特に好きです。ブリンキー・パレルモやヨーゼフ・ボイス、日本だと物派、具体派など。

最初に好きになった芸術家はジョゼフ・コーネルという立体コラージュ(アッサンブラージュ)の人です。

他には、古典絵画やエコール・ド・パリ世代、シュルレアリスム初期もすきですし、旧ソ連あたりの社会主義の美術は特に好きだなと思うことが多いです。チェコ映画やポスター、ポーランドの映画監督アンジェイ・ズラウスキーなど。要は、雑食です。

__そういう超現実的(シュルレアリスム)なものやファンタジーに惹かれながら、江戸文化の粋、義理・人情、見栄といったすごく現実的なものも大好きなわけじゃないですか。そのあたりをどういうふうに、衣服作品に落とし込んでいるんでしょう?

高橋:僕もまだまだ手探りなんです。自分の中でたくさんの文脈から強く影響を受けていて、でも各々好きな部分、意識が違うというか。なので、どうやって衣服に落とし込もうかたくさん考えますし、その時間がとても楽しいです。

ただ、表面上だけで作りたくはないなと思います。

__表面上だけで作らない、というのは?

高橋:一つは歴史を踏まえて作る、ということです。衣服に関して言えば、この100年くらいのファッションの流れ、そして現代ファッションの流れに沿って作るということは、ものすごく意識しています。

今を生きている僕からすれば、生まれてない時代のことは色んな教材から想像するしかありません。

でも美術史、ファッション史、社会史といった歴史をないことにはできない。そのなかで、どう具現化するか、服という形にするか。これは多分、ずっと戦いになるんだと思います。

もう一つは、見えないものを見えないまま、手放したくない。

__どういうことですか?

高橋:人間はどうしてもそういうものに「幽霊」や「神」とか名前をつけたり、定義を与えたりして安心したい生き物だと思います。

アニミズムを端的に、見えないものが在ると信じることだとして、僕は見えないもの、わからないものを、一つに定義せずに、妄想や想像することが物事に対する思慮深さにつながると思っています。

__目の前のものを疑い続けたい、ということでしょうか?

高橋:それよりは、想像するのが楽しい、みたいなことだと思います。疑ったり信じたり問いかけたり。落ちてる石ひとつで、たくさんの想像ができることは人間の素晴らしい部分だと思います。

あんまりうまく伝えられないんですが、そんなことを考えて作品を作っていますね。

__とても興味深いお話をありがとうございました。次回は、今回のBORDEAUXでの展示会のテーマや受注・販売する衣服作品のデザイン、使用する生地についてお聞きしていきます。引き続き、よろしくお願いします。

イベント概要

●開催期間:2022年11月25日(金)〜27日(日)
※全日、高橋雄飛さん在廊

●開催中の営業時間:12:00〜17:00

●開催場所:BORDEAUX
〒592-8333
大阪府堺市西区浜寺石津町西4丁15-12
ヴォーリズ富久邸

●概要
・衣服作品のオーダー受け付け(袖丈等の微調整、生地の載せ替えも可能)
・1点ものの衣服作品やポスター作品の販売
・納期は秋冬物が1月中旬、春夏物は3〜4月を予定。

話し手:高橋 雄飛(oira)
聞き手:久永 善純(BORDEAUXオーナー)/鈴木 直人(ライター)